Salaud !! | TERRA EXTRANJERA

Salaud !!

 人間観察を好む人がいる。どんな些細なことでも見逃さないように注意深く、その人の癖・特徴・発言などを資料にして、その人の生い立ちや、生き様などを想像する。僕も良く観察する一人だ。


ある日こんな出来事に遭遇した。それはバスの中での出来事だった。車内は通勤時間も過ぎて客もまばらであった。その時僕の後ろの席で大きな声が響いた。中年のムッシュと初老のマダムが口論をしているようだ。まあFranceではよく見る光景なのでその時はなんとも思わず聞き耳立てないでいた。だが、あまりにも大声なので気になり耳を傾けた。


その内容はあまりにも早口のフランス語なので聞き取るのも難しかった。どうも中年のムッシュが不本意な事をしたらしい。経緯がどの様なものなのかは解らずじまいだったが様子を見ていた。その初老の女性は傘を振り回しながら「エゴイスト!!ファシスト!!」と罵しり、最後に「Salaud!!(ゲス野朗)」と止めを刺した。


こんな言葉はCINEMAの中でしか聞いたことなく、生で「Salaud」を聞いたのは初めてだった。流石にその男性も口論では手に負えないと思ったのか次の停留所で降りた。だが、ここからがこの喜劇の見せ所だった。そのムッシュはなんとバスの窓越しに初老のマダムに向かってナチス式の敬礼をしたのであった。そのムッシュの表情たるや見ている観客までも不愉快にさせる笑顔だった。マダムは金切り声を上げ窓越しに傘を振り回そうとしていたが、それを見かねた周りの人達もマダムをなだめ幕は閉じた。


 一部の人達は含み笑いや顔を両手で多い笑いをこらえていた。この初老のマダムもこんなに達者に怒りを吹き上げるのだから、まだまだ長生きできるだろう。そしてナチス式の敬礼をしたムッシュもかなりユーモアの持ち主だ。「ファシストと言われたから敬礼したのか?あるいはナチス崇拝者だったのか?」そこは謎だが、観客は大いに楽しんだろう。僕もその一人だった。バルザックが人間喜劇なる小説を書いたのも頷ける。ネタが豊富なのだから。そして人間喜劇の幕はいつでも突然開かれるだろう・・・

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